2013年8月14日水曜日

日本車と言えば「峠セダン」

  日本メーカーで開発を手がける人々はどんなことを考えてクルマを設計しているのか? ちょっと偉そうだが、これが感じられなければ日本車の良さなんて一生解らないだろう。日本の自動車評論家の全部とは言わないが、多くは日本の新型車が出れば必死で粗捜しをし、輸入新型車には諸手を挙げて大絶賛する傾向が見られる。これは彼らの多くが日本の「流儀」というものにまったく疎いからじゃないかと思う。

  多くの評論家の文章を読むと、そこには根本的な勘違いがあるように感じるのだ。彼らにとって日本の公道を法定速度で走ることよりも、クローズドなコース(サーキットなど)で走ることの方が大前提として価値が高いと決まっているような気がする。自動車ユーザーの多くはサーキットなんて行かないのだから、ニュルブリックリンクのタイムがどうだとこれ見よがしに書くことに何の意味があるのだろうか?

  その一方で日本の開発者はバカではないから、日本の「流儀」でクルマを粛々と作り続ける。それを勘違いした評論家(プロアマ問わず)がドイツの基準であれこれ批評するという悲しい構図がそこにはある。それでも開発者の想いは、そのクルマに脈々と受け継がれ、多くの日本車ファンへ届いている。評論家など媒介せずともスカイラインにもレガシィにもアテンザにもファンはたくさん生まれる。

  レクサスLSや日産GT-Rは素晴らしいクルマだ。この2台はそれぞれのジャンルで間違いなく世界最高のクルマだ。トヨタと日産は評論家による「ドイツ式ルール」に負けることなく、ドイツの流儀で最高のクルマを作ってしまったのだから。ここまで完璧なクルマを作られたらどれだけ無知蒙昧な評論家達もグウの音も出ない。

  日本の道をこよなく愛し多くの国道を次々と走破していくクルマ愛好家からみれば、この2台は「異形」の日本車として戸惑いを持って受け止められる。こんなヘビーなクルマじゃ日本の峠は下れないからだ・・・。あくまでGT-Rはドイツ的なアウトバーン&サーキット文化のクルマであり、LSはアメリカ的なハイクラス「応接間」カーでしかない。

  日本メーカーは他国の流儀でも最高のクルマを作ることができるわけだが、果たしてドイツ車やアメリカ車の中で日本の流儀で高い評価が得られるクルマがあるのか? 今のところそれに該当するようなクルマは見当たらない。ただ今後出てくる可能性は否定できない。

  今ドイツ車は大きく変革の時を迎えている。かつてはアウトバーンを250km/hで疾走できる高性能車がドイツの代名詞であったが、今ではBMW320iやゴルフハイラインなどの最高速度は200km/h台前半に抑えられている。アウトバーンはかつてのような速度無制限区間が大幅に減少していて、その区間であっても混雑で250km/hで走る機会はほとんど無くなっているからだ。

  最新のドイツ車の最大のキーワードは「日本車のように軽く」のようだ。その為にBMWもメルセデスもFR設計に拘らなくなり、軽量でパワーが出る直4ターボの高出力化に血道を挙げている。車重も1500kgを下回るものが次々と現れていている。ハンドリングやサスがさらに日本車のレベルに迫ってくれば、いよいよドイツ版の峠セダンが完成する日も近いだろう。メルセデス・BMW・アウディの目線の先には、日本を代表するスポーツセダンの「ランエボ」があるようだ。

  改めていう必要もないが、ランエボもまた日本車の「宝」だ。日本的な価値観のまま欧州にその存在を認めさせたクルマで、その地位はポルシェのスポーツカーに勝るとも劣らないほどだ。ドイツ人の価値判断は実利に大きく基づいているようで、アウトバーンでポルシェと同等の走りをするランエボが評価されるのは当然と言える。ポルシェもまたアウトバーンのみならず、日本の峠でも大活躍できるポテンシャルを持った希有なドイツ車だ。BMWやメルセデスのように家の前に置いておくくらいしか使い道がないクルマとは違うのだ。     (長くなったので次回に続けます)