気に入らないものはなんでもかんでも否定というのは良くないですね。たくさん車種を用意してくれてるだけでトヨタは素晴らしい!というのがもちろん大前提ではあるのですが、マークXの特別仕様車が目が痛いほどの「黄色」で登場し、カムリのフェイスリフトがどことなくセダンの尊厳を奪っているように感じられ、どうもトヨタはこの2台に正統セダンとしての進化を意図していないように感じてしまいます。レクサスがあってクラウンがあってという大所帯のトヨタグループのブランド事情を考えると、「進化の方向」はおのずと限られたものになってくるんですかね。
クラウンやレクサスGSより快適になってはダメだし、レクサスISやRCよりもスポーティになってもダメ。「サルーン」と「GTカー」という二つの進化系を封じられた「中庸」なポジションに、カムリとマークXというキャラの違う2台をラインナップしていて、しかも噂になっていた両車の統合の話もどうやら無くなりました。トヨタの信頼性を加味すると驚愕のコスパと言えるこの2台ですから、今後もそれなりに勝算はあるのでしょうが、セダンが持つ高機能性を評価する購入層からしてみるといろいろ難点があると思います。
現代のセダンには、本物のスポーツカーが持つようなオーラが必要不可欠で、それはその気になれば快適に使えるベッドのようなボンネットの強調であり、リアのフェンダー回りの造形だけで見る人をノックアウトできる優雅さだったりを備えることですが、全身が黄色になってしまったマークXのボンネットは見つめるだけで目がチカチカしますし、ベース車の軽いデザインラインが垣間見えてしまうリアフェンダーに熟成された色気は無く、ただただ若々しいなといったところです。「Yellow Label」の特別塗装色アウェイクンイエローは、流行のマイカ系ではなくマットな質感でパネルのプレスラインがより平坦に見えてしまう気がするのですが・・・。
トヨタとしては50歳を超えた男性に向けて、地味で控えめなライフスタイルから「脱皮」して「原色」に身を包んで街を闊歩せよ!みたいな啓示を与えているのでしょうが、最近のオッサンは原色のポロシャツに半ズボン&ブランドサンダルくらいは余裕で"標準装備"になっていて、自動車評論家の小沢コージさんのコピーみないな人種が街に溢れてます。彼らがプライベートで乗るクルマを選ぶならば、おそらくこのマークXはすり抜けて86なんかを選ぶ気がします。もしくはボクシィかハリアーか・・・。なんだかんだいってもモダンなライフスタイルを好む人々を巧妙に取込んでいくトヨタのマーケティングと企画力には脱帽します。日産ファンに言わせればエルグラやセレナの方が上なのかもしれませんが、結局のところトヨタはミニバンやSUVなどのファミリーカーに特別な意味を持たせる演出はお家芸といえるほどで、流行にやたらとタイムリーなクルマと次々と生む術はまさに"ジャスト=イン=タイム"だなと感じます。
しかしその得意技をセダンに持ち込むとなると、風向きが大きく変わって何だか「やっちゃった感」がつきまといます。とりあえずレクサスのスピンドルグリルは受け入れられましたが、これはトヨタの真剣さが見事に伝わってセダンファンの心理を突き動かした数少ない例だと思います。それ以外のトヨタの企画を見てみると、どうやらセダンのデザインやその価値観を探求することなく、その存在が古臭いものだと決めつけてしまい、おもむろにミニバンやSUVで俄に成功した手法を安易に持ち込んでいます。そして古臭いイメージを解体するはずが、高級車が持つ尊厳そのものが解体してしまった・・・そんな失敗例がトヨタでは近年増えているように感じます。
正面から見るとプリウスに見えてしまうフェイスリフトを施したカムリHVもやはりショッキングでした。トヨタのグローバルモデルを象徴するキーンルックのヘッドライトデザインと、パカっと開いたフォグライト&グリルの採用で、Bセグのアクア、Cセグのプリウス、Dセグのカムリで、VWやフォードに対抗するFF3クラスの設定を日本国内ではHV専用モデルだけで構成してきました。確かに2011年のデビュー時に鮮烈な印象を放ったアクアのデザインはよく出来ていますし、3代目にしてプリウスもだいぶ洗練されてきました。トヨタとしてはまだまだ売上が落ちる気配もない2台のデザインには自信を持っているのかもしれません。そしてカムリをこのラインに統合して、この2台からのステップアップ需要を掘り起こそうという意図もあるようです。
トヨタの経営判断と、カムリのような本格セダンに愛着を持つ人々との間にはいくらかの認識の違い(ギャップ)があることが、今回のフェイスリフトで明らかになった思います。カムリHVのフェイスリフトがこのモデルに与える影響はかなり甚大で、そしてそれは必ずしも良い方向には行かないだろうと思います。現行カムリHVは間違いなくアテンザやクラウンへとつながる国産セダンが盛り上がるきっかけを作った名車でした。これだけ静かで快適で広々としたキャビンをもちつつも、実用燃費がおよそ15km/Lという破格の数値をぶら下げて登場したことで、セダンというスタイルがエコカー全盛の時代を生き残れないだろうと薄々感じていた人々のマインドを一気に変えセダンに多くの視線が注がれる契機となりました。そして何よりもその予想外に「渋くてカッコいい」セダンの王道スタイルに痺れた人も多かったはずです。そうした思い入れを抱えたセダン愛好家にとっては今回のフェイスリフトはあまりにも残念・無念であります・・・。
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↓ドイツ車を引き合いに出すのは気が引けますが、カムリHVにはこの路線を進んでほしかった・・・
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