2015年7月29日水曜日

ボルボS60にディーゼルは「鬼に金棒」か?

  マツダ・アテンザのディーゼルシェアが相変わらず7割を超えているそうです。販売台数もしぶとく月間1000台程度は確保していて、絶対的な地盤を持つクラウンには遠く及びませんが、トヨタのHV勢(カムリHV、レクサスIS300h)に対しては完全に優位に立っています。いよいよディーゼルが市民権を得て、日本市場のDセグセダンのメインユニットは「ディーゼルvsハイブリッド」の二極化を進むことがほぼ確定したようです。おそらくこの夏に参入するジャガーXEもBMW3シリーズと同じようにディーゼルが全体の半数以上を占めるでしょうし、新たに発表されたボルボS60もまたディーゼルモデルを前面に押し出しての巻き返しを狙っているようです。

  「マツダ」「ジャガー」「ボルボ」といった旧フォード傘下の乗用車ブランドが、SUVだけでなく世界的に伸び悩んでいると言われるDセグセダンで勝負してくれることは嬉しいです。しかもそれぞれ別個に新型クリーンディーゼルを自社開発したことは、まだまだ欧州や日本の市場で勝負するんだという意志の表明で、「我々は欧州向けのブランドだ!(ドイツ勢に負けない!)」と高らかに宣言しているかのようです。

  自動車産業を「国策」としているドイツ政府に手厚く庇護されて、VW、メルセデス、BMWのドイツ3大グループが欧州で著しく台頭する一方で、それに対抗すべく非ドイツ系のブランドを結集したフォードによって、アストンマーティン、ランドローバー、ジャガー、ボルボ、マツダにはそれぞれ最先端で戦うだけの技術力が与えられました。技術自慢の「ボルボ」「マツダ」「欧州フォード」がそれぞれに競って新型シャシーやエンジンを開発して最も優れたものを採用したわけですから、VW、ホンダ、PSAといったFFシャシーが得意な巨大メーカーとも十分対等に渡り合える高性能な設計が、それぞれのブランドで共用されました。

  2000年代の10年間で得た技術ベースを元に、次世代をしっかりと見据えたクリーンディーゼルを搭載して、ドイツ勢と戦うという段取りには、マツダ、ジャガー、ボルボもそれぞれに十分に自信をもっているようです。マツダのディーゼルユニットはエンジンそのものが大きく脚光を浴びていますが、旧フォード時代に熟成された技術基盤があったからこそ、新型エンジンを生かしたクルマ作りが可能だったと言えます。ガソリンと比べてエンジンの重量が嵩む上、トルクが溢れ出るディーゼルを積んでも、非常にタイトでまとまった走りを見せるためには、「足回り」「電動ステアリング」「シャシー&エンジンマウント」といった基幹技術がしっかりしているマツダだからこそのディーゼルエンジンでの成功だったと思います。

  旧フォード陣営から発売される昨今の新型車に共通する特徴として、「足回り」のキャラクターの使い分けの上手さと、「電動ステアリング」の熟成度の高さが挙げられます。例えば先代モデルから、サスペンションの形式を変更して登場してきた新型マスタングは、驚くほどにキャラの立った乗り味に仕上がっていて、アメ車だと思ってバカにして試乗すると完全に足元をすくわれます。そしてさらに強烈なインパクトを与えるのが、BMWやメルセデスを全く寄せ付けないほどに進んでいる電動ステアの熟成具合です。カーメディアを見る限りでは、この「新興勢力」に対して「落ち着きがない」などまだまだ警戒感を露にしていますが、現実には予想を大幅に上回る受注でフォードディーラーも大賑わいが続いています。スタイリングに何となく惹かれて試してみたら「楽しくて!ぶったまげた!」といったところが、購入を決めた人の率直な感想だと思います。

  もちろんハンドリングや足回りといっても、いろいろな特性があるもので、例えば高速道路のレーンチェンジでいかに安定して「カニ走り」を見せるか?という基準ではマスタングよりもBMWやレクサスのMスポ・Fスポの方が機動性は高いわけですが・・・。それでも今回のフルモデルチェンジで、クルマの方向性を大きく変えているにも関わらず、いきなりBMWやレクサスといった「高いハードル」を難なく超えて、日本のクルマ好きのハートをガッチリと射止めるだけの懐の深い乗り味を見せつけたわけですから、「フォード」の実力が日本のユーザーに伝わる良い契機となったかもしれません。

  さてディーゼルを新搭載して日本にも上陸することになったボルボですが、このディーゼルと入れ替わりで、世界でも珍しい「横置き直6ターボ」が姿を消すことになりました。このエンジンを使っていた「S60T6」という最上級モデルに加えて、ポールスターというチューナーによる「S60T6ポールスター」というコンプリートモデルもありました。実際にこの限定モデルは乗ったことがないので恐縮ですが、ボルボの高い水準にある足回りがベースになっていることから、BMWのM3/M4に匹敵するような本格チューンにも関わらず、街乗りでも十分に乗り心地が確保されると絶賛されています。ちなみにトヨタ系列のデンソー&アイシンAWがボルボと組んで仕上げた「T5」ユニット搭載モデルは、ハッキリ言って縦置きのアウディA4も横置きのアウディA3も全く付け入る隙が無いほどに乗り心地が良かったです(アイシンAWの8ATに依るところも大きい?)。

  ちょっと失礼かもしれないですが、メルセデスCLAに直4ディーゼルターボを搭載したとしたら、あの貧弱な足回りでディーゼルの振動を抑え込むことができるのでしょうか? そして軽量なガソリンエンジンでもヘナヘナと拙いフィールを見せてしまっているあの未完成過ぎる電動ステアリングで、どう頑張ってもディーゼル搭載でさらに鼻先が重くなった車体をスムーズに操縦できるとはとても思えません。

  さらにBMW320dですら「落第」気味といえる「静音性」においても、CLAの安っぽい車体で一体どうやってクリアするのか見当がつきません(静かになるイメージが湧かない)。個人的にCLAのスタイリングには全く魅力を感じないのですが、日本市場ではCLAのデザインがそこそこ注目されているようで、メルセデスをインポート1位に押し上げる原動力にもなっているようです。それ故にこのCLAにディーゼルが載せられれば、大ヒット間違い無し!と素人にもわかるのですけどね・・・。

  一方で、ボルボS60には注目を集めるための「デザイン力」が不足しています。マツダの前田育男、ジャガーのイアン・カラムに匹敵するような才能あふれるデザイン・チーフディレクターをヘッドハンティングしてくる必要がありそうです。「クルマ」「エンジン」「デザイン」の三拍子揃ったマツダとジャガーが、メルセデスやBMWを一気に撃破しそうな雰囲気を出してますが、同じ旧フォード陣営の中でも随一の乗り味を誇るとされるボルボもぜひこの「波」に乗っていきたいところですね。せっかく用意したディーゼルユニットにジャガー(ZF8AT)やマツダ(内製6AT/6MT)に対しても優位に立てる、アイシンAWの8ATを採用したわけですから、注目を集めるスタイリングが欲しいところだと思います。


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2015年7月14日火曜日

ジャガーXEの試乗車がまだまだやってこない・・・で3シリーズってのは。

  ジャガー「XE」の各グレード価格がいよいよ発表になりました。・・・ということはそろそろ試乗車がやってくる!!!と思ったのですが、比較的近くにあるディーラーで関東地区で最初の特別内覧会を開催!という段階だそうで、まだまだ先になりそうです。夏休みの間にゆっくり考えてね!くらいに考えているのでしょうか? 日本と同時にジャガーが拡販を狙うアメリカでは9月が年度始めだということで、毎年新車の売れ行きも伸びるようですが、どうやらそちらに優先的に試乗車が回されていて、日本は後回しなのかもしれません。ジャガーは「XE」に続いて「F-PACE」という初のSUVモデルの投入も決まっているようで内部では調整に大忙しといったところかもしれません。

  前々回からまだ試乗すらしていないジャガーXEのスペックからその性能を予測し、その圧倒的なまでの実力の前に、既存勢力・・・輸入車Dセグの雄「BMW3シリーズ」はどうやって対抗するのか? そんな結構メチャクチャなことばかり考えて毎日楽しく過ごしています。ジャガーにはマーケティングに秀でた経営陣がいるようで、ラグジュアリースポーツ、Dセグ、ラグジュアリーSUVと、ライバル関係が手薄なところを上手く突いてきていますし、F-typeもそうでしたが、BMWくらいなら手の届く日本の庶民に、もはやBMWでは満足できないような「グラマラス」なカー・ライフを夢見させてくれます。

  BMWファンには耳が痛いでしょうが、スペックで見る限りではジャガーXEは現行の3シリーズの設計をことごとく理想的なものに置き換えたような輝きがあります。手前勝手なことを言うと、BMWが3シリーズを十分に納得できるクルマに仕上げて500万円〜の価格で商売するなら、特に何の問題もないのです。もしそうならばジャガーXEなんて不要ですし、一体何が楽しくてインド資本のメーカーが単独でこしらえた新設計シャシーの第一号車に過剰なまでの期待などするでしょうか? 

  しかし現実は大きく違います。E90系以来全くといっていいほど、「所有欲マインド」に響かないクルマになり果ててしまっている3シリーズに、ジャガーXEが制裁・天誅を加えるという「テロ」によって、閉塞感しかないDセグに新たな地平が切り開かれることを何よりも先に望んでいます!(それが偽り無き気持ちです!)。そして来るべきジャガーXEのスペックにはその期待に十分応えてくれるだけの、大いなる理想がしっかりと盛り込まれています。特に3シリーズが絶望的につまらない!などと言うつもりはないですけど、3シリーズにお灸が据えられることに、BMWファンをも含むであろう多くのセダン好きがなんとも不思議なカタルシスを感じているのではないでしょうか。

  先ほど乱暴にぶち上げたE90/F30の3シリーズの迷走についてもう少し具体的に説明します。E90系以来BMWはある種のマーケティングに基づき、3シリーズを本来の運動性能に重きを置くスポーツセダンから脱却させ、プレミアムカーとしての自信を深めること(乗り心地や静粛性)についての改良を進めた結果、出来上がったのがまさか!?の「クラウン/マークX互換機」だった・・・という話です。もちろんセールス面ではトヨタ的なマーケティングに沿ったプロダクトで上手くトヨタのシェアに切り込み、日本で3シリーズの最高売上記録を作ったわけですから成功なのだと思います。

  特にトヨタのプログレ/プレビスのユーザーから見れば、アルテッツァ上がりのレクサスISよりも3シリーズの方がより違和感もなく納得出来たはずです。しかしその時点で3シリーズはマークXやスカイラインに乗る現役世代に背を向け、プログレ/プレビスからサイ/レクサスHSへの乗り換えに応じなかった高齢者をターゲットにしたクルマだったので、乗り心地を重視したフニャフニャの足へと急展開することも必然だったと言えます(現役世代からはMスポでオプション料を稼ぐという戦略?)。

  しかしここまで大胆に既存ユーザーを裏切り、大量に引退する団塊世代の退職金を狙おうという試みには、当然ながら手痛いしっぺ返しがあります。もはや「団塊世代が乗ってますよ!」的なイメージがびっしり付いた「3シリーズ」というブランドに、トレンドに敏感な情報化社会に生きる若者達が再び群がることはないでしょう。もはや彼らにとってBMWはヤマハやカワサキのライバルブランドくらいにしか認識されていません。若者の認識の中では4輪のBMWはもはや過去の存在です。いまやどこでもコミコミで100万円もしない中古のE90が売れ残って溢れている現状からわかるのは、このクルマは現代の若者にとってはゴミとは言わないまでも、BMWなのになぜか「楽しくない」「かっこ悪い」「モテない」と受け止められているからです。

  なんでこんな「お粗末」なクルマがいつまでもDセグの基準車として崇められるのでしょうか? 確かにE46は世界中からフォロワーが生まれる名車だったのは認めますけど、その「後継車」というだけで多くの無知蒙昧な人々が何も考えずに買ったわけです。E90がさらに立派な車体になって、「高級車」であることを主張するデザインになったF30系は、BMWの狙い通りに東アジア市場で大人気となり、中国や韓国でかなりの数の賞を獲ったそうです。「世界の工場」となり無駄に購買力を持った東アジア市場のユーザーが、無批判に買い漁った結果・・・その歪んだマーケットに甘やかされて、本来のBMWの「軸」は大いに狂い出し、2000年代のわずか10年あまりでその権威はかなりの所まで堕ちました(人によって意見は違うでしょうけど)。

  BMWの迷走がもしなかったならば、メルセデスに復活のチャンスが与えられることはなく、アウディやレクサスが予想外に順調な成長を遂げることもなかったかも知れません。そう考えると結果オーライの面もありますが、やはりDセグ全体にとってはそれ以上に大きな弊害がありました。その一つがE90/F30を通じてBMWがやたらと自ブランドのアイデンティティとして拘ったポイントである「車体剛性」の高さです。このBMWのスタンスに疑問を提起することなく、「車体剛性=是」と安直に結論したジャーナリスト連中はあまりにも知性が欠如していて、その資質に問題があったと言わざるを得ません。彼らはちょっと小賢しい日本車を絞め上げる(貶める)ためには、特に考えることもなく3シリーズを比較対象にして「車体剛性が足りない!」と結論してしまえばOKという、とてもプロとは思えない安易なジャーナリズムに終始しました。そしてそれを鵜呑みにする輸入車大好きなクズがたくさんいたわけです。まあフェアに考えてこのことが日本のクルマ文化を衰退させた一因でないか?と思うわけです。

  福野礼一郎氏といった業界ナンバー1の良識派と思われる評論家ですら、3シリーズのどうでもいい車体剛性を基準に日本車を片付けている例があるくらいです(黒歴史・クルマ評論2014の100ページ!)。カーメディアが悪いのか?無批判に買った人が悪いのか?BMWが悪いのか?もしくはその他のブランドのやる気の無さが悪いのか?まあそれら全部が悪い方に作用して、セダンの注目度はみるみる下がっていったことは間違いないです。当然のように沸き起こる「セダンはダサい!」という意見に、SUVやミニバン買うヤツはクルマが解っていない!とアホみたいな反論に終始する「コミュ障」気味な態度がクルマ関係の掲示板にやたらと横行してました(今でも!)。

  しかし何度もいいますが、E90/F30は一体どこをドライブしたら楽しく乗れるのでしょうか?全く見当もつかないです。六本木ヒルズの地下駐車場なんて絶対に足を踏み入れられないですし、軽井沢を走っても周囲から見下されるでしょうし、郊外のイオンの駐車場ですら「老人用BMW・・・」とバカにされます。いくら車体剛性が優れていようとも「運転していて恥ずかしい」クルマというのは全く救いようがありません。同時代のクルマとして、トヨタのハリアーの方がよっぽど品格があってユーザーも健全に見えます。そしてセダンは全部ダメか?というとそうではなく、やはり同時代のインスパイアやディアマンテなどは、とてもスマートでかつ男らしく見えます!2015年の今でもこの2台なら買い換えすることもなく十分に楽しめたのではないでしょうか?

  現実問題としてE90/F30だけでなく、「V35/V36スカイライン」、現行の「レクサスIS」でもデートに行けますか?という話です。E90はこれらのフォロワーを生みましたが、結論としてどの一つも完成度は極めて低いです。評論家に酷評されて全く売れないと困るので、何も考えずに車体剛性を無理矢理引き上げます。当然の事ながら、乗り味はセダンらしい優雅なものから大きく離れ、戦車みたいなゴツゴツしたフィールに変わるのですが、それを一生懸命にセッティングで抑え込む(隠す)という不毛なクルマ作りの果てに一体誰が得をしたと言うのでしょうか? 実際にE90を駆逐することに成功したV35/V36は素晴らしいですし、そこに注がれた日産の「意地」には多少なりとも感情移入していまいますが、2015年現在の視点で見た時に、BMWと評論家の愚かなまでのミスリードである「車体剛性・絶対論」にまんまと乗せられた愚かさをクルマ全体から感じてしまいます。

  2年前に発売された現行レクサスIS・・・。F30と同じ方向性のままにベンチマークを超えるという仕事の確かさは評価できますけど、前回も指摘しましたがオリジナルなアイディアがゼロ!でした。その半年後に登場したV37スカイラインは、3シリーズの株が大暴落していて、もはやベンチマークする価値など無い!と見抜いたようで、有名ブランドのEセグに対抗出来るようなクルマへと脱却しました。いまではF10系5シリーズやレクサスGSがライバルとなっています。さて相変わらずレクサスISは3シリーズを追従しているようですけど、スカイライン、アテンザ、CクラスといったDセグは3シリーズとは別離する道を選びました(それぞれの評価はどうあれ)。そして宙ぶらりんのままフワフワと漂う3シリーズとレクサスISを誅殺する「破壊者」としてジャガーXEそしてアルファロメオ・ジュリアがデビューの時を待っています。「アルミのジャガー」と「カーボンのアルファ」が参戦しても、まだまだ「車体剛性が・・・」なんて言っている評論家はいないとは思いますが・・・。


  追伸:現行3シリーズは、クラウンやマークXに比べれば、それなりに興味深いクルマではあります。本文の中では「裸の王様」のように描かれていますが、BMWにはジャガーXEやアルファロメオ・ジュリアを弾き飛ばすような大刷新を期待していることを付け加えさせて頂きます。

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